1月21日 ウェルカムドリンク

 結婚式の招待状が手元にある。1週間前に届いた。返信を出せずにいた。

 今さら出席を渋っているわけではない。恥をかく自分を引き受けることについては一応の決着をつけた。返信をしていないのはウェルカムドリンクとアレルギーの報告で悩んでいるからだ。

 

 「こちらからお選びください」と提示された選択肢の中で、正直な気持ちとしては烏龍茶に丸をつけたかった。僕にとって他の選択肢は烏龍茶以下だった。

 でもな…たぶんだけどお酒を選ぶのが暗黙の了解でしょ?本来だったら生ビール以外は記載したくないくらいでしょ?

 生ビールだけだと不満の声が上がるだろうということで他のアルコールを用意して、未成年がいるからジュースを用意して、最後に一応の選択肢として加えられたのが烏龍茶って感じでしょ?

 色々と選択肢はありますけど、まぁ…ね。わかってますよね?強制ではないんですけど、うちの地区はAさんに投票するのが決まりというかね、なんというか、ずっとそういうことでやって来ていますのでね、強制じゃないんですけどね、でもまぁそういうことですのでね…個々が判断することですけどまぁ一応確認として…みたいなことだ。きっと。だからこそ選択肢の一番上が生ビールになっているのだろうし。

 そんなに望まれていない方の出席者なのだから、邪魔をしないようにしなくてはいけない。

 てなわけで、生ビールを丸で囲んだ。返信はがきを見た瞬間に「興醒めだよ、やっぱ誘わなきゃよかったわ」と思われるのは嫌だった。

 

 さてもう一つ、アレルギーはどうしましょう。山芋、キウイ、いちご、バナナ、ナス…程度に差はあれど、それぞれ避けられるならそれに越したことはない。全部書いて「ばーか、そんなの1つも出ねぇよ」って思われたら恥ずかしいし、「ちゃんと式場の人に伝えておかなくちゃ」と手間を掛けさせるのも申し訳ない。

 バカにされるより親切にされたほうが胸が痛む。そんなことってあるんですね。

 いちご、バナナ、ナスは体調によっては全然平気だし(盛り合わせの形で提供されなければ)、山芋とキウイも一口二口ならなんとかなる。のどが痒くなるかもしれないけど気持ち悪くなって退席するとこまではいかない…はず。

 

 返信はがきをポストに投函した。ウェルカムドリンクは「生ビール」、アレルギーは「なし」。

 いざとなったら残しちゃえばいい、ってことにした。新郎新婦から一番遠い席に案内されるはずだから、オペラグラスでもなきゃよく見えないでしょ。オペラグラスを持ち込む新郎新婦なんていないだろうし、一番遠い席の招待客がちゃんと料理に手を付けているかなんて気にしないだろうし、結婚式の裏テーマとして食品ロス0宣言は掲げられていないだろうし。

とにかく邪魔したり手間を掛けさせたりしたくないのよ。

1月20日 枠組み

 働くことは素晴らしいことだ。一生懸命働くことはとても素晴らしいことだ。私はこの仕事に命がけで取り組んでいる。命をかけている、というのは決して言い過ぎではないぞ。仕事こそ私の全てだ。

 こんな経営者の会社は搾取搾取搾取。絞りかすでおからを作っちゃいましたてなもので、人件費は残業代込みの固定給で経費削減、過去最高益。

 一生懸命働くことは、果たしてどれほど素晴らしいことなんでしょうね。働くことで自己実現をしている人はどれくらいいるんでしょうね。

 だいたい、一番儲かっているのは枠組みを作った人じゃん。どれだけ大金を稼いでいる人だって、それが枠組みの中で稼いだものだとしたら、枠組みの外にもっと稼いでいる人がいるはずだ。あくせくと枠組みの中で働くよりも枠組みの外でそこそこ働いている方が儲かっちゃう。

 顧客のためにサービスをどんどん追加して過去最高益を叩き出してコンビニすごいってなっているけど、時給が1500円には達しないということが、なんというか全てを物語っているよな。深夜の割増賃金でだって1500円には程遠い。

 日勤の時給を最低1500円と定めたら、一体何割の店が潰れることになるだろう。そういう枠組みの中で雇用されて生かされている。有り難いやら悲しいやら。

1月18日 配送でお願いしたんですけど…

 ついに届いた。半年前には考えられなかった半年後がやって来たということでもある。

 果てしなく遠い未来の話だと思っていたのに、その未来はいつの間にやら到着していて、僕の手元にはオーダーしていた財布がある。ヤバいなー。なんでもかんでもヤバいって言う人のことをバカにしている手前使いたくはないんだけど、こればっかりはヤバいとしか言いようがない。

 180日もの無収穫な日々を送ってしまったってことだもの。植えた覚えのない種は芽を出さなけりゃ花も咲かせないし実もつけないんだねぇ。身に覚えのない請求書だったら、それが本当に身に覚えのない稀なパターン。大抵はもしかしてあのときのクリックだろうか…って心当たりがあるからねぇ。人には人の歴史あり。見せられない検索履歴とアクセスログありけり。

 

 完成の連絡は留守番電話に残されていた。オーダーから丁度半年が経った日の夕方、「ご都合のよろしい日にお越しください」と。

 あれ?店頭受け取りじゃなくて配送のはずだったんだけどな。ちょっと遠いから…って、オーダーしたときに配送料を合わせて払ったはずだし。まぁ確かに「ご来店じゃないんですね…」って歓迎されてないニュアンスで言われたし(オーダー用紙に「来店」「配送」の選択肢用意されてるわりに)実際問題受け取りに行けない距離じゃないんだけど、でも…受け取りのためだけに行くには遠いのよ。往復の電車賃考えたら配送料の方が安上がりだし、僕は受け取りのためだけに出向いた街をぶらつかずに帰ってきちゃうタイプだし。

 オーダー用紙の「配送」の文字が丸で囲まれているとはいえ、その用紙を見て「ご都合のよろしい日にー」って電話をかけてきたんだろうと考えると、待っていても来ないんじゃないか…と不安な気持ちになった。職人さんがあみんイズムの正当な継承者だった場合、こちらが何もアクションを起こさないでいたら半年どころか1年経っても何も言ってこないかもしれない。

 というわけで、お店に電話を掛けてみることにした。

 

 「あのー、すみません。夕方に完成したというお電話がありまして…その、留守電を今聞いたんですけど、あの、僕、オーダーしたときに配送でお願いしたんですけど、あの、お店にお越しくださいって入ってたんで、一応確認で電話をさせていただいたんですけど…」

 なるべく下手にね、あちらの非を責めるでもなく、なんならこっちが無理なお願いをしようとしているがごとく。

 「承知しましたー。それじゃあそういう手続きでやらしてもらいますねー」

 軽い。翼の生えた軽返事。「すみません、それでお願いします」と電話を終えた。全然いいんだけど下手に出た分もやもやとしてしまった。「うるせー客だったな」と腹を立てられていなければ何でもいいか。トイレ行ったあとの洗う前の手で梱包されなきゃ何でもいいか。

 

 そんなこんなで無事受け取れて、完成品を見て、満足した。ネット通販みたいに購入確定ボタンをクリックした瞬間がピークだったな…って感じになっちゃうんじゃないかと少し不安に思っていたんだけど、全然そんなことなかった。しっかり嬉しくなった。

 中身を入れ替えてとりあえず近所のスーパーに向かう。もちろん、財布の金額以上のお金が入れられる予定はない。

1月16日 年1の番組

 特番を見た。毎年この時期に放送されている特番で、数年前から好んで見ている。毎週放送されたら絶対に見なくなる自信があるんだけど(いつの間にかまぁいっか…ってなっちゃう)、あーでも30分番組だったらわからんな。1時間番組だったら絶対そうなる。年1だから放送されるのをとても楽しみにしていた。

 こちらが勝手に抱いた期待を裏切らない内容になっていた。

 

 今年好きだったのは、10歳の男の子がデートをする企画。「年上の女性を癒やしてあげるよ」っていう生意気な(「に」癒やしてもらいたい…じゃなくて、「を」癒やしてあげるよ)コンセプトだった。

 デート中の男の子はずっと月9の主人公みたいな現実世界だったら目も当てらんない気障さを発揮していて(だからこそフィクションの世界でとびきりの男前が演じる価値がある)、正直ちょこちょこムカつく。思春期に躓いちゃえ、って思ったくらい。でもところどころ顔を覗かせるおこちゃま感が、それを含めて「何この子、ちょーかわいいんですけど!」って気持ちにさせた。

 ゲームセンターで披露した得意の太鼓の達人の選曲がアンパンマンのマーチだったり、ステーキ屋さんで焼き加減を聞かれて「焦げていないくらい」と答えたり。

 一番良かったのは、別れ際に「寂しくなったらいつでも僕に連絡してきて」と格好つけたところ。続く言葉が「水曜と日曜以外だったら大丈夫だからさ」だった。当然女性は「なんで?」と聞くんだけど、それに対する彼の答えは「水曜と日曜は塾でダメなんだ…」。格好つけている彼の爪先立ちの感じと「塾で無理」っていう抗えなさとが個人的にはものすごく良い塩梅に感じられた。

 

 でも、一番良かったのはこれじゃなくて、おばあさんとおばあさんが会う企画だった。91歳の姉と87歳の妹の30年振りの再会を実現させよう、ってやつ。

 

 姉は愛媛、妹はアメリカに住んでいる。妹は終戦から4年でアメリカ人と結婚した。母親は猛反対で、「娘がアメリカ人に奪われてしまう」と警察に駆け込んだほどらしい。

 「アメリカに行きなさい。好きな人と結婚しなさい」と唯一背中を押してあげたのが姉だった。

 

 現在の2人はFAXでやりとりをしている。

 もう一度会いたいと思いつつこの30年それが実現しなかったのには理由があった。妹が日本に来られなかったのは夫の病気、チケット代、それから自身の健康面。

 病気の後遺症で長時間座り続けることが出来ないから日本に行きたくても行けなかった。エコノミーやビジネスでは横になることが出来ない。

 2人をどうしても会わせてあげたいと思った孫が(10歳くらいの女の子)番組に応募をして、今回30年振りの再会が実現することとなった。すごく良い子。このまま育ってほしい。

 

 もうね、番組を見なきゃ伝わんないことだから、ざっくりもざっくりで書くけども。これは、航空会社の協力でファーストクラスを提供してもらって、87歳の妹が13000キロの空の旅を経て91歳の姉と再会するって話。雑な言い方をすれば、ばばあとばばあが久しぶり会うってだけなんだけど、これがもうね、心揺さぶられずに見ることなんて出来るものか、って感じなのよ。

 妹が羽田に着いて、関西のどっかの空港に乗り継いで、んでそこに孫が迎えに行くの。迎え入れる孫は妹の顔を見て泣いちゃうんだけど、その時に居合わせた複数人のCAのほとんどがぼろぼろ泣いてんのよ。もちろん事情を知っていただろうけど、再会したのは孫とばばあ(妹)だからね。いやいや、本番これからですよ、っていう。Bメロの高音でもう出てないのになんで原曲キーで歌い始めたの?って。

 だけどCAの人たちが涙流しているのを見ても茶化せなかったんだよね。僕もうるっと来ちゃったから。会いたい人に会う(会おうとする)ってことが持つ尊さがここで感じられちゃったんだよね。

 で、そっから姉の入居する施設に移動して、2人は無事に再会。そりゃあもうとっても喜んでいて、言葉を交わしたり抱擁したりしてはっぴーはっぴーはっぴー、よ(細かな描写なんて野暮じゃないですか。)。

 それでね、孫が2人の写真を取ろうとするのね。2人が笑顔を見せている写真を。2人とも向けられたカメラに「にこっ」てするんだけど、なんかぎこちない。笑おうとして笑うのが精一杯って感じ。

 別れの時間が近づいているし、きっとこれが最後になるし…ってときに孫が言うのね。「きっと2人とも100歳になったらまた会えるよ」って。

 「そりゃ無理だ」

 あっ、うまく笑えた。

 

 再会できて良かったな。笑いあえてよかったな。心からそう思えた。

 お涙頂戴みたいな番組を冷笑したいお年頃なんだけど(未だに?)、この放送にその態度を見せるのは無理だなー。冷笑ってしようとしてするものじゃないからね。しちゃうものだから。

1月13日 ちょっと関わろうとしている?

 黙ってトイレ使うやつとか、輪ゴムを外して立ち読みするやつとかをレジから眺めていると、無性に腹が立つ。もちろんそれは自分が店員の立場から眺めている時の話で、ルール違反をされていることを理解しているから「こそ」の「無性に」だと思う。だって、知らないスポーツのルール違反を目撃しても、それが違反だってことがピンとこないし腹が立たないもの。ラグビー見てて「今のタックルは危険だ」って教えてもらっても「どれが?全部危険じゃない?」って感じちゃうように。

 珍しくないから、ってのもあると思う。「ご利用の方は店員にお声がけ下さい」の貼り紙を見ながらそのままトイレに入っていくやつも輪ゴムを外して立ち読みするやつも珍しくないから、って。

 あるよね。うん。ある、ある。

 KKコンビのKの方だって、たまたまのデッドボールだったらマウンドに向かわない(肩に当たるくらいだったら、たぶん)。この日2つ目だったり同一カード3連戦で行われた執拗な内角攻めの末のデッドボールだったりするからマウンドに向かうのだ。

 

 今日は店の側で水道工事が行われていた。作業員が代わる代わる店にやってきてトイレを使い、トイレ待ちの人は立ち読みをして、入れ替わりでトイレを使い、店を出ていった。買い物をしない人の方が多かった。

 入店、トイレ、退店。来た道をただ帰っていく彼らに少しでも後ろめたい気持ちを抱かせてやりたい僕は、店を出る直前に一瞬ちらっとレジを見る作業員を凝視することにした(それすらしないやつのことは、もうお手上げだ)。少し怖かったけれど、「何見てんだよ、なんか文句あるのか?」と言われたら「そういう声がけはちゃんとするんですね」と言い返してやろうと思っていた(目は合わせないしレジカウンターからは一歩も出ないし、防犯カメラにちゃんと映る位置にいたうえで)。

 実際には僕の凝視になんの効果もなく、こちらをチラ見する作業員は1人しかおらず、数時間後にはまた入れ替わり立ち代わりトイレを使われるだけとなった。歴史は繰り返される。

 

 納品とともにイライラをを片付けていて(納品のほうが片付くのが早い)あることに気がついた。

 何でちょっと関わろうとしているんだ?

 黙ってトイレを借りる人に(今日に限らず普段の同じケースでも)関わろうとしているのは何でだ?向こうから歩いてくるやつが気に食わないから、って肩をぶつけようするのと同じじゃないか。

 きっかけを自分から作りにいっているなー。衝突の可能性がある方法を選ぶなんてやめなさいよ。

 こわい。あー、こわい。こわいこわいこわい。やられてもやり返すのは心のなかで。もしくは家に帰ってノートの中に。舌打ちは入退店音に紛れ込ませろ、五線譜の中に忍ばせるのだ。

1月12日 ここのもいい?

 「ここのもいい?」早朝(というより深夜)、客に聞かれた。その時僕は冷凍食品とアイスの納品を片付けていた。

 客が聞いてきたのはトレーに積み上げられたベーカリーの納品で、正直な気持ちを言えば無視をしたかった。ワンオペだし、冷凍の方を先に片付けたいし、時間も時間だし。ニワトリが鳴いてから出直せや、と真剣に思った。

 「少々お待ちください」返事をして、とりあえず保冷ケースの蓋を閉めて、感情にも蓋をして(隠れたかどうかは定かでない)ベーカリーのトレーの前に向かう。検品を行うことにした。

 

 3枚目のトレーに取り掛かろうとしたところで「やっぱいいわ、これで」と客はサンドウィッチを手にレジへ向かった。

 全てのトレーの中を一気に見せてもらおうと思ってたのに、なんだよ、ちんたらしやがって…ということだろうか。

 本当に気が変わったのかもしれないし、待ちきれなかったのかもしれないし、欲しいパンがなさそうだと判断したのかもしれないし、もっと別の理由かもしれないけれど、僕という人間が心の中で示す反応は、だったら最初からサンドウィッチ選べよ、というものだった。期待通りの働きをすることが出来ず申し訳ございません…なんて気持ちは微塵も生じなかった。検品を後回しにしてトレーを全部崩してお好きなものを選んでいただこうって気持ちはもちろん湧かなかった。からっから。

 

 僕の人間性に問題があるのはさておき、ちょいと考えてしまう。自分もこの客のようにトレーの中にある陳列前の商品を選ばせてもらおうとするタイプだったら…。

 客としての僕はトレーの中にある商品を「見せて」とは言えない。言うだけなら言えないこともないけど、言ったからには何か買わなくてはいけないし、2段とか3段とか見せてもらっただけなら1つ買えばそれで十分だと思うけど、10段とかそれ以上とかあるベーカリーのトレーを全て見せてもらったら1つ買うだけでは済ませられない。済ませられないって言うのは「見せてもらった手前」という気持ちの部分の話で、そういうルールは存在していない。

 自分がトレーの中の商品を見せてもらおうとするタイプだったら「ここのもいい?」と聞かれた時に示される反応が「どうぞどうぞ」になるのだろうか。「嫌だな」って真っ先に思ってしまうのは客としての自分が見せてもらわないタイプだからだろうか。親切心の欠如という僕の人間性が大きく影響を与えているのは大前提として、自分が見せてもらうタイプだったら違う反応になるのかな…ってのは興味がある。

 全部見せてもらったうえで一つしか買わないとか、全部見せてもらったうえで何も買わないとか、全部見せてもらったうえで「良いのないね」って言えちゃうとか(たまにいるんだよね、こういうのわざわざ言う人)、とかとかとかとか。自分がそう言う人だったら全然平気で「あ、どうぞー」って検品すら後回しにして全部のトレーを客のために広げることが出来るのだろうか。

 何を買うかも買うかどうかも自由だし、サンドウィッチを買った客に悪いところなんてないんだけど、なんかねぇ…。

1月11日 一度きりのことだから

 今日は成人の日だった。情報番組では「荒れる成人式」「泣ける成人式」の特集が放送されていた。あとは歌う市長のこともちょこっと。

 派手な新成人。地味な新成人。子が子なら親も親。多かれ少なかれ連鎖する人間性。良くも悪くも「一緒に住んでると似てくるところあるよね」って感じ。

 ド派手な格好の我が子を見て「ま、いいんじゃないですかね。人生で一度きりのことですしね」なーんて、目を細めちゃって。逆光じゃなくてその細め方だとすれば…えぇ、考え方は人それぞれですからね。ウチノコイカシテルゼってなもんですよね。ウチノコイカレテルゼじゃないですもんね。

 僕が見た番組だとド派手な格好をした新成人は皆口を揃えていた。「目立ちたい。一度きりなんだから楽しまなきゃ。」

 

 「一度きりの人生だから。一度きりの成人式だから。だから楽しまなきゃ。」ド派手な見た目の新成人からこういう言葉が発せられるたびに腹が立った。実際ね、一度きりの人生楽しんだもん勝ちだと思うし、楽しめている人が羨ましいってのは僕の中にもある。

 だけどねー、なんというか、あなたたちは何度目だって楽しんでいるじゃないか(!!!!!)、ってのがあるんだよね。

 一度きりの人生楽しんで、今週2度目のスポッチャ楽しんで、今年3度目のスノーボードも楽しんで、4年連続の京都も楽しんで、5年振り18回目の母校の甲子園出場を喜んで、結婚してから6度目の春はやって来なくて、元嫁を乗せた羽田行きの最終便は7分前に飛び立って、8年振りの実家はリフォーム済みで面影なくて、9ヶ月待ちのお取り寄せグルメは今更届いても一緒に食べる相手はいなくて、10年振りに会った冴えない同級生が親会社の執行役員になっていて…(学生時代の関係性ってリセットされるの?)。

 回数関係なく楽しもうとしているあなたたちの、節目節目で発する「一度きりのことなんだからさ、今回くらいは多めに見てよ」のその感じ。僕はそこに腹が立ってしまう。ぬるいダイエットしてるやつがチートデー設定しているみたいでむーーーってなる。

 僕とかあの子とかあの辺の子らとかにとっても一度きりの成人式なんですけど…ねぇ。