10月23日 本屋にて

 タレント本コーナーで立ち読みをしている女性を見かけた。読んでいるのは平積みされているミュージシャンのエッセイだった。

 僕はその女性のことが気になった。

 

 ページを捲る。鼻をすする。涙を拭う。繰り返される柔らかなスリーステップ。これが立ち読みだということ(無課金)を頭の中から追い出して考えてみれば、それはそれはきれいな涙だった(本の内容的に、たぶん)。

 立ち読みじゃなければな…と真っ先に思うのは僕の心が狭いからだろうか。

 僕は自分の心が狭くはないことを証明するために(四畳半でも工夫すれば全然快適ですけど?)考え方を変えることにした。

 この女性はページを捲る手が止められなくなってしまったのだな、と。「切りのいいところが来るまで読むのをやめられないこの本が悪い」って考え方もできるし(褒め)。

 がたがた言う必要はないだろう。今はまだレジに持っていっていないだけだ。通販で言うところの発送準備中の状態で、商品のピックアップは完了している。

 

 店内をぶらぶらしながら考える。立ち読みであんなに心を揺さぶられちゃうと家に帰って続きを読み始めるときにどうなんだろう。同じ温度で読みすすめることが出来るのだろうか。部活を引退して3ヶ月後の憧れの先輩に感じる「あれ…こんなんだったっけ」みたいになってしまわないだろうか。変わらず格好良いんだけど…あれ?何にも打ち込んでいない先輩が纏う空気感、え?あれ?みたいな。

 30分くらい経過しただろうか。レジに向かう前にタレント本コーナーにもう一度向かってみた。念のため確認しておこうと思った(何かを)。

 

 さっきの女性はさっきと変わらず立ち読みを続けていた。本の右側に紙が積み重なり、左側にはもうほとんど残っていない状態だった。まもなくレジに向かうことになるのだろう。僕は自分の予想に全額ベッドすることにした(何を、いくら?)。

 

 最後まで読み終わった(らしい)女性は本を閉じた。一旦平積みの一番上に戻し、鼻をすすり、涙を拭う。そしてトートバッグを方にかけ直して晴れ晴れとした表情でその場を去った。

 僕が差し出した何かは元締めに回収されてしまった。全額ベッドと言いつつ帰りの電車賃をしっかりと残していたのは、こんな未来を想像していたからだろうか。

 

 ちゃんと届いたんだったらさ…と思った。平積みされたあの本を読んで涙を流すってことはきっと心の綺麗な人なんだろうけど、なんだかねぇ…。素敵な時間を過ごさせてもらっておいてお礼言わずに帰るみたいで好かん。

 2回目は読まないから、ってことなんだろうか。もしくはあれだけ心を揺さぶられてたのに「オチが微妙だったんで」みたいな理由だったりするのかな。いやー、でも、どう?完食しといて「お皿が少し汚れてたから」で支払い免除の要求をするのはむしろ恥、って感じじゃないか?

 

 心に届いたってなー。著者に印税入らないんじゃ届いたところでだよなー、と思った。