父は言った。兄の昨年の収入は総支給額で600万円ちょいだった、と。
なぜそんなことを僕に伝えたのだろう。
「どうしてお前はお兄ちゃんのように頑張ることができないんだ」と鉄拳制裁を行うためだろうか(一回も殴られたことないけど)。「息子さんはどんな仕事をしているんですか、と部下に聞かれた時のお父さんの気持ちを考えたことがあるのか?恥をかかせやがって、ちゃんと働けないなら出ていけ」と張り倒すためだろうか(脛は齧っているけど家は出ている)。
狙いはわからないけれど、なんでかそういう話をされた。
兄は大学院を卒業してから働き始めた。院卒の4年目。で、僕の2つ上なので、社会に出たタイミングは同じになった。
ちょっとだけ思ったのは、もしも自分が正社員として働いていたら兄の稼ぎを聞かされて「えーー良いなー」なんてゆるく受け止めることができなかったかもしれない。自分が280万円の年収で兄が600万円だったら(というか4年目で280万円って割と恵まれている方じゃないか?)、フリーターの自分が受け止めるときには存在していなかった「深刻な何か」が生じて、うまく受け止められなかったかもしれない。
同じ年度に就職活動をした兄から小遣いをもらい、「すぐ使っちゃうけどいいの?」と軽口を叩く。これは自分が同じように正社員として働いていたらできないことだろうなぁ。ま、正社員として働いていないからこそ貰えている小遣いなんだけど。
兄が帰宅したのは深夜1時を過ぎた頃だった。翌日を有給にしたことを聞いていたので、その分片付けなくてはいけない仕事があったんだろうか…と思った。
試しに聞いてみると「いや、今日の分の仕事を片付けただけ」とのこと。電車通勤の人は終電で帰れるけど、車通勤の人は終わらせてから帰ることになるのでこんなもんらしい。しかも、これでも半年前よりは落ち着いている、なんて言うではないか。有給もボーナスもちゃんとある会社だけど、いやー、激務だなー。
これだけでも信じられないのに、「大学の時の研究室はもっとキツかったからそれよりはまだマシ。給料貰えるし」だなんて、理系の研究室どうなってんだよ。そういえば、バイト先の理系の大学生も同じこと言ってたっけ。先輩みんな「給料貰えるから激務でも全然マシ」って言いますよ、って。
申し訳ないなと思う一方で、正直…期待している自分がいる。今回も貰えるのかな…って。
今回も結果的には小遣いをもらうことができた。受け取る時の僕はあえて、あえてですよ、あえて。やりとりが重苦しくならないように努めて軽口を叩いたわけなんだけど、これって…兄からしたらどうなんだろうな。
色々な感情やら事情やらで小遣いを渡したら、受け取った2つ下の弟が軽口を叩く。僕が兄だったら結構ムカついてるな(想像してみて、あら、びっくり)。自分にとって都合のいい解釈にならないようにあえて厳しめに(?)想像しているとはいえ、軽口を叩くのは正しい反応じゃないかも。
むずいなー。小遣いを貰うってのも簡単なことじゃないのな。